「リーダーの才能」
1人当たり習字が3枚、漢字の書き取りが4枚、作文が5枚以上で、それぞれ11人分。合わせて120枚以上の紙を一度に持って行こうとしたのは横着だった。
廊下を歩きながら、土井はいささか後悔していた。
まとまった量の紙は案外重たいし、大きさがバラバラで持ちづらい。横向きに腕に乗せたり縦にして胸に抱えたり、何度持ち替えてみても収まりが悪くて危なっかしい――と思う間に、綴じ紐を通した穴が重みに負けて、びりびりと音を立てて裂け始める。
「うわっ、と、と、」
抱え直そうとしたが間に合わない。とうとう腕を滑り抜けた紙の束は思い切りよくぶちまけられ、丁度廊下の角を曲がってきた文次郎が、目に飛び込んだ一面の白に面食らったように立ち竦んだ。小松田さん、と言いかけて、扇状に飛び散った紙の中心にいる土井に目を留め驚いた顔をする。
「今回はわたしだ。済まないな。足元、気を付けて」
土井が声をかけるより先に、文次郎は膝をついて紙を拾い始めている。半ば破れてしまった作文の一枚を手に取り、ちらと見て、眉をしかめた。
「加藤は作文の字もこんなですか」
でも文章は結構ちゃんと書けてるな。そう独りごちて尚も文面に目を落としているところに、土井は苦笑して手を差し出す。
「読んでやるなよ。こっちに渡してくれ」
「宜しければ、運ぶのを手伝いますが」
「大丈夫。ありがとう」
集めた紙をトントンと揃えて土井に手渡し、文次郎は軽く一礼してそのまま立ち去る。
肩から反対側の脇へ鉄鎖をぐるりと掛け回し、腰紐には分銅付きの乳切木を差して、足首に砂袋でも巻き付けているのか、注意して見ればやや不自然な足運びだ。その物々しい出で立ちはいかにも自他共に「学園一忍者してる男」と称され、下級生に恐れられるに似つかわしい。しかし。
破れ落ちた紙の小片を懐に押し込み、慎重に紙の束を持ち上げて、土井は団蔵が苦労して書いていた作文をしげしげと眺めた。
名前の部分が欠けているのに筆跡だけで後輩のものと分かるのと、この文字を苦もなく解読できているのと、どっちに感心するべきか。
「……何だかんだで、良い委員長なんだな」
いいいいんちょう、と頭の中に並べた文字が、目に映るそれに釣られてそのうち勝手に伸び縮みを始め、土井は慌てて瞬きをした。