「全てを解決するもの、それは」


 南蛮から最新式の銃を五丁輸入したと言う話は聞いていた。
 その銃の習熟を八方斎に言い付けられた狙撃手の雷鬼が、異国語の説明書を読み進めるのに四苦八苦しているのも知っていた。
 八方斎の許可を取らずに一丁分解したとかで、頭に水の入ったどんぶり鉢を乗せて正座でお説教されているところは、ドクタケ忍者隊のみんなが見ていた。
 なまじ銃の扱いに長けていると難儀だねぇ、などと雷鬼を気の毒がりつつ面白がっていたのがもう三ヶ月は前のことで、突如として「ドクタケ忍者隊・銃隊候補生」として十人が呼び出された時には、最新式の銃のことなどみんなほとんど忘れかけていた。

「でっか!!!」
 一丁は指導員役の雷鬼が肩に担ぎ、残り四丁は地面に敷いた筵(むしろ)の上へ並べて置かれた銃をひと目見るなり、候補生たちは声を揃えて驚嘆した。
 最新式の銃と言っても「火薬が爆ぜる勢いで筒の中から弾丸を飛ばす」という理屈に変わりはないのだ。構造がまったく違うことはないだろうと、普段使っている火縄銃がちょっと格好良くなったくらいのものを想像していたが、形はともかく大きさがまるで違う。子供の拳が入りそうな口径、軽く両腕を広げたほどの長さのある銃身、威圧感あふれる無骨な外見に加えて、銃を運んできたと思しき傍らの荷車は、乾いた地面に深い轍(わだち)を刻んでいる。どれをとっても自分たちが知る「銃」の規格外だ。
「十匁筒より余裕で大きいってウッソだろ……。これ、"銃"じゃなくて"砲"じゃないの?」
 しばらくぽかんとした後に霰鬼が言うと、片手で銃を抱えたまま、雷鬼は器用に指先で頬を掻いた。
「俺もそう思うんだけど、説明書は"銃"なんだよねー。いくら南蛮人は俺たちより体が大きいって言っても、ちょっとした大砲だよなぁ」
「あ、それじゃあ一丁につき二人つくんだ?」
 銃は五丁なのに人は十人集められたのはどういうことかと訝しがっていた暁鬼が、ぽんと手を打つ。どう見ても大砲サイズの銃と、それに使用する大型の弾丸と多量の火薬の運搬、弾込め・火薬込め・照準合わせ。この口径なら発砲の反動も大きいだろう。とても一人では扱いきれまい。
 しかし雷鬼はきょとんして首を振った。
「いや? 一人一丁、個人携行だよ?」
「馬鹿じゃないの!!!」
 また候補生たちの声が揃った。
「デカいだろ! 重いだろ! 付属品が嵩張るだろ! 持ち運びだけでも一人じゃままならないだろ!!」
「うん、俺もそこには苦労した。強度と威力はそのままで、どうにかして本体や弾丸を軽量化できないか、色々と考えたんだよね」
 バレルの内側を削れないか。中空にできる部分はないか。金属部品を木材部品で代用できないか。鉄塊のような銃を右肩から左肩へ担ぎ直して雷鬼は笑う。そのあっさりした動作に、と言うことは改造に成功したのかと、候補生たちの間に安堵の空気が流れる。
「分解までして検討した結果、軽量化は不可能だった」
「……おおう……」
「そこで逆転の発想だ」

 こいつが重くなくなればいい。と言うことはつまり、重いと感じなくなるまで体を鍛えればいいのでは?

「そう気付いて三ヶ月みっちり鍛えて今エイトパックよ、俺」
「馬鹿じゃないの!!!」
 二度目の合唱にも雷鬼は動じない。ここに集まったみんなには最低三ヶ月のあいだ特別トレーニングで徹底的に肉体改造に励んでもらう、半数が落伍するのを見込んで十人選抜したが、しかし全員合格してくれて勿論構わない、と爽やかに白い歯を光らせて親指を立てる。
「指導員、意見具申!」
「はい、霧鬼候補生」
「道具を人に合わせるんじゃなくて人を道具に合わせるのは、組織のやり方として問題があると思います!!」
「それ八方斎さまに通用すると思う?」
「……思わない」

 南蛮からの輸入品で最新式。きっと値段が張るだろう。専用の弾丸や性能の良い火薬だって決して安くはないはずだ。だけどそんなに高いお金を使うならきっちり運用の仕方を考えてから買えよなあっ、という心からの叫びを飲み込んで、十人の候補生は光の消えた目で鍛錬課程参加同意書に署名した。