「未来に約束」


 強くなるって決めてたんだ。
 だから一生懸命忍術をお勉強して、火薬や武器の扱いも覚えたし、跳び箱7段飛べるようになったし、とんぼ返りだって大得意。ちょっとばっかり苦手だった水練も、今じゃ潜水だって遠泳だって早泳ぎだって出来る。お習字も得意だし工作はお手の物だ。
 パパが帰って来るまでに、僕はなんでも一人で出来る、立派な忍者になってる予定だったんだ。
 そりゃあ、休み時間にいぶ鬼やふぶ鬼と遊ぶのは好きだよ。山ぶ鬼は物知りだから面白い話をいっぱい知ってて、お喋りするのも楽しい。魔界之先生のお手伝いで授業の資料を作るのも、珍しいものが見られるから嫌いじゃない。忍術学園の忍たまどもをからかいに行くのなんか最高だ。だって僕はまだ子どもなんだから。
 子どもだけどさ。僕はドクタケ忍術教室の生徒なわけで。
 そんじょそこらのお子様と、ましてや忍たまなんかとは、一味も二味も違うんだ。将来はドクタケ忍者隊に入ることが決まってる、いわば忍者の英才教育を受けてるエリートってやつ。だからもうきっちり戦力に数えられてて、既に実習訓練として何回もホンモノの現場を踏んでるんだ。
 これってすごいよね。僕らと同年代の、普通の子どもが合戦場に出てごらんよ。
 間近でカノン砲が火を噴いたら確実に気絶だよ、気絶。バタンキューってさ。

「しぶ鬼よ、」
 埃で真っ白になったサングラスを、外さないまま袖で拭って、達魔鬼は我が子の名を呼んだ。
「お前は成績もいいし、わたしがいなくても素直に育ったし、言うことのない自慢の息子だが、」
 ポンポンと、頭に手を乗せる。そのそばから埃と硝煙のにおいがふわっと舞い上がる。
 しぶ鬼は確かに強くなった。砲身に弾が詰まって中から破裂したカノン砲の、地滑りを起こす勢いの爆発を目の当たりにして、いち早くその後片付けに動き出している。
 涙と汗と埃と土と、いろいろなものが張り付いたべたべたの顔をして、ひっくひっくとしゃくり上げながら。
「お前の予定通りには、ちょっと行かなかったみたいだな」
 もうひとつしゃくり上げた途端、今度はくしゃみが飛び出す。
「あーあーあー。これで顔から出るもの全部出たぞ」
 達魔鬼が袂で顔を拭ってやると、しぶ鬼はまだらになった顔をグイと上げた。口が急角度でへの字に曲がっている。
「パパの帰りが早過ぎたから、間に合わなかっただけさ」
 言い返して、プンと薄い胸を張った。

 僕はキャプテン・達魔鬼の息子。だから、絶対もっと強くなれるんだ。
 今日泣いちゃったのは、晴れて一人前になるその日までの借り――ってことにしておいてやる。